障がい者の主体性を育てる新しい就労支援|ラジオ番組制作が生み出す驚きの変化とは?
障がい福祉の仕事に「ラジオ番組制作」という選択肢。
就労継続支援B型事業所の仕事と聞いて、皆さんはどのような作業を思い浮かべるでしょうか。
商品の組み立てや袋詰めなどの軽作業、農作業、清掃作業など、さまざまな仕事があります。
もちろん、どの仕事にも大切な役割があります。
では、そこに「ラジオ番組をつくる」という仕事が加わったら、どうでしょうか。
静岡市にある就労継続支援B型事業所「未来図校 静岡キャンパス」では、障がいのある人たちが主体となって制作する「8ユニットラジオ」という活動を行っています。
私たちは、この活動を通して、一つの大きな可能性を感じています。
それは、ラジオ番組制作が、障がいのある人の主体性を育てる支援方法にもなり得るということです。
そして、実際に利用者さんたちの中には、以前とは違う姿を見せるようになった人たちがいます。

「何をしたいですか?」と聞くだけでは、主体性は育たない。
障がい福祉の現場では、「本人の意思を尊重すること」「主体性を大切にすること」が重要だと言われています。
しかし、実際に主体性を育てることは、決して簡単ではありません。
本人に「何をしたいですか?」と尋ねても、なかなか答えが返ってこない。
自分で決めることに慣れていなかったり、失敗することに不安を感じていたりする人もいます。
では、どうすれば自分で考え、自分で選び、自分の意思で行動する経験を増やせるのでしょうか。
私たちは、その一つの方法がラジオ番組制作なのではないかと考えています。
ラジオ番組制作を通じて見えてきた、利用者さんたちの変化。
私たちが大切にしているのは、番組が完成したという結果だけではありません。
制作活動に参加する中で、一人ひとりにどのような経験が生まれ、どのような変化が見られるのか。
そこに、支援としての大きな価値があると考えています。
場面緘黙があった人が、あいさつや日常会話をするように。
以前は場面緘黙があり、人と話すことが難しかった利用者さん。
しかし、日々の活動やラジオ番組制作に関わる経験を重ねる中で、少しずつ変化が見られるようになりました。
今では、自分からあいさつをしたり、日常的な会話を交わしたりする姿が見られます。
もちろん、ラジオ番組制作だけが変化の理由だとは考えていません。
安心できる環境や周囲との信頼関係、さまざまな経験の積み重ねも大切な要素です。
それでも、ラジオという活動が、人と関わり、自分の思いを表現する機会の一つになったことには、大きな意味があると感じています。
約20年間ひきこもりだった人が、企業就労へ。
もう一つ、私たちにとって印象深い事例があります。
約20年間、ひきこもり生活を送っていた40代の利用者さん。
未来図校への通所は、短時間から始まりました。
そこから少しずつ活動の機会を増やし、さまざまな経験を積み重ねていきました。
そして、利用開始から約2年後。
企業への就職を実現したのです。
現在は福祉関係の仕事に就き、週4日、1日6時間の勤務という形で社会と関わっています。
この就職は、本人の努力や日々の就労支援、段階的な活動の積み重ねによって実現したものです。
ラジオ番組制作だけの成果ではありません。
しかし、私たちはこうした事例からも、本人が安心して参加でき、自分の役割を持ち、さまざまなことに挑戦できる環境の重要性を感じています。
大切なのは、最初から高い目標を求めることではありません。
その人に合った経験を、一つひとつ積み重ねられることなのです。
なぜ、ラジオ番組制作が主体性を育てるのか?
ラジオ番組を一つ制作するためには、実に多くの工程があります。
何を話すのか。
どんな質問をするのか。
誰がどの役割を担当するのか。
どのような番組にしたいのか。
そして、本番では相手の話を聞き、その場で考え、自分の言葉で伝えなければなりません。
もちろん、うまくいくことばかりではありません。
言葉が出てこないこともあれば、思ったように話せないこともあります。
しかし、そこにこそ大切な経験があると考えています。
自分で考える。自分で選ぶ。自分で行動する。そして、その結果を自分自身で受け止める。
ラジオ番組制作には、こうした経験を自然に積み重ねられる場面が数多く存在するのです。
支援員が主役にならない。それが大切。
ここで、私たちが特に大切にしていることがあります。
それは、支援員が番組をつくりすぎないことです。
支援員が台本をすべて考え、話す内容を決め、利用者さんが指示どおりに話す。
それでも、一つのラジオ番組は完成するかもしれません。
しかし、それでは本人の主体性を育てる機会が少なくなってしまいます。
私たちが目指しているのは、単に完成度の高い番組を制作することではありません。
障がいのある人自身が、番組をつくる一人として考え、悩み、挑戦すること。
支援員の仕事は、本人に代わって答えを出すことではなく、本人が自分の力を発揮できる環境を整えることだと考えています。
ラジオ番組制作は、就労継続支援B型の魅力的な生産活動にもなる。
もう一つ、ラジオ番組制作には大きな特徴があります。
それは、自分たちの仕事が、社会に向けて発信されることです。
制作した番組は、インターネットを通じて多くの人に届けることができます。
地域の人に話を聞き、ゲストを迎え、自分たちの言葉で情報を伝える。
ときには事業所の外に出て、公開収録を行うこともあります。
そこで生まれるのは、事業所の中だけでは完結しない、人や地域社会とのつながりです。
そして、番組制作には話すこと以外にも、準備、進行、収録、編集など、さまざまな役割があります。
得意なことも、苦手なことも、一人ひとり違います。
だからこそ、それぞれの特徴を生かして参加できる可能性があります。
ラジオ番組制作は、障がい者の社会参加や自己表現の機会であると同時に、創造的な生産活動としての可能性も持っているのです。
主体性は、教えるものではなく、経験の中で育つもの。
私たちは、ラジオ番組制作を始めれば、誰もが必ず主体的になるとは考えていません。
また、ラジオ番組制作がすべての人に適しているとも思っていません。
大切なのは、本人が興味を持ち、やってみたいと思えること。
そして、その気持ちを出発点に、自分自身で経験を重ねていくことです。
誰かに決めてもらうことが多かった人が、自分の考えを伝えるようになる。
人と関わることが難しかった人が、少しずつ他者との交流を楽しむようになる。
そんな小さな変化の積み重ねこそ、私たちが大切にしているものです。
ラジオ番組を完成させることだけが目的なのではありません。
番組をつくる過程そのものに、価値があるのです。
では、障がい福祉の現場でラジオ番組制作をどう実践するのか?
ここまで読んで、こんな疑問を持たれた方もいるのではないでしょうか。
「ラジオ番組制作が支援につながることは分かった。でも、具体的にどうやるの?」
「話すことが苦手な利用者さんでも参加できるの?」
「専門的な機材や知識が必要なのでは?」
「普段の支援業務と両立できるの?」
「支援員はどこまで手伝えばいいの?」
実は、私たちも活動を始める中で、こうした課題に向き合ってきました。
ラジオ番組制作を障がい福祉の現場で実践するには、単にマイクや録音機材を用意するだけでは十分ではありません。
本人の意思をどのように引き出すのか。
一人ひとりに合った役割をどう考えるのか。
失敗や予想外の出来事を、どのように支援につなげていくのか。
そして、支援員が手を出しすぎずに活動を支えるにはどうすればいいのか。
そこには、私たちが日々の活動で考え、試行錯誤してきた工夫があります。
障がいのある人が、自分たちで考え、自分たちの言葉で社会に発信する。
そんな活動が、もっと多くの福祉の現場に広がったら、とても面白いと思いませんか。
私たちは、8ユニットラジオの活動を通じて、障がい福祉における新しい仕事と支援の可能性を、これからも探っていきたいと考えています。
8ユニットラジオについて
静岡市の就労継続支援B型事業所「未来図校 静岡キャンパス」が取り組む、障がいのある人たちが主体となったラジオ番組制作活動です。
公開収録やインターネット配信を通じて、地域社会とのつながりを生み出しています。
番組はYouTubeで配信しています。
【YouTubeチャンネル】
https://www.youtube.com/@8unit-radio

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